目次
2. なぜ空間距離と沿面距離が高電圧プリント基板設計の鍵となるのか?
3. 空間距離(Clearance Distance)とは?アーク放電と絶縁破壊を防ぐには?
4. 沿面距離(Creepage Distance)とは?絶縁不良や短絡を防ぐには?
5. 空間距離と沿面距離の違いとは?エンジニア向け設計比較表で整理します
6. 空間距離を設計する際に考慮すべき重要なパラメータとは?
8. 実例:MINMAX AMF-07を用いた空間距離・沿面距離の計算
9. よくある質問(FAQ):空間距離と沿面距離、理解できていますか?
10. まとめと実務上の提言:設計が規格・安全要件に準拠していることをどう確認するか?
はじめに
プリント基板の高電圧絶縁設計において、空間距離と沿面距離を適切に配置させることは、安全性を確保しながらアーク放電や絶縁破壊を防ぐための重要なステップです。電源モジュールや電子機器が高密度・小型化・高電圧に進む中、基板上のわずかなスペースも非常に貴重となり、プリント基板の安全絶縁設計はエンジニアにとって大きな課題になってきています。パッド、ピン、配線、ビアなどすべての部品において、限られた空間を最大限活用するために綿密なレイアウトが必要になります。 同時に、製造や組立工程では、ソルダーマスク、はんだフロー、基板分離などの工法要求を満足させるためのスペース確保も欠かせません。特に高電圧アプリケーションでは、800Vのような高電圧・大電流・高出力が重大な損傷を引き起こす危険性をもっているため、適切な距離設計が極めて重要になります。
このような理由から、空間距離と沿面距離はプリント基板の設計において重要な役割を果たします。これらはアーク放電(Arcing)や絶縁破壊(Dielectric Breakdown)を防止するための中核となるパラメータであり、特に高電圧または汚染環境下で動作する装置では、安全かつ高効率な基板を設計するためエンジニアが深く理解し正しく適用することが求められます。
なぜ空間距離と沿面距離が高電圧プリント基板設計の鍵となるのか?
適切な空間距離と沿面距離は、ショートやアーク放電(Arcing)を防止させるために極めて重要です。アーク放電とは、導体間の電位差が空気などの媒体の絶縁能力を超えると局所的な電場強度が高まり、空気が電離されて導電性のプラズマになり持続的な放電現象が発生する現象です。 この放電は強い熱、光、そして物理的な損傷を伴い、絶縁劣化、機器故障、感電、さらには火災のリスクを引き起こします。特に高電圧用途ではこのリスクが高まります。
アーク放電に加え、絶縁破壊(Dielectric Breakdown)も注意すべき現象です。絶縁材料やその媒体にかかる電場の強度がその耐性限界を超えると、材料は本来の絶縁性能を失い電流が本来隔離されるべき領域を貫通するようになります。これによりアーク放電の発生が促進されるだけでなく、絶縁材料の劣化が加速し、ショートや機器故障のリスクが増加します。したがって、空間距離、沿面距離、および絶縁破壊などの要因を十分に理解し、適切に管理することが、安全で信頼性の高いプリント基板を設計する上での重要課題となります。
これらのリスクを効果的に低減するため、エンジニアは使用電圧、汚染度、絶縁材料、標高などの実際のアプリケーション条件に基づいて、空間距離および沿面距離を正確に選定・計算する必要があります。 例えば、高電圧環境向けの機器では、電圧スパイクに備えてより広い距離が必要となり、同時に湿度や汚染などの外部要因も考慮する必要があります。単に国際的な安全規格(例:IEC 60664-1)に適合させるためだけでなく、長寿命で安全性の高い電源モジュールや制御システムを設計するために不可欠となります。
空間距離(Clearance Distance)とは?アーク放電と絶縁破壊をどう防ぐか?
空間距離(Clearance)とは、異なる電位を持つ2つの導電部品の間を空気を介して最短距離で隔てたものを指します。空間距離が小さすぎたり、電位差が大きすぎたりすると、その電位差が空気の絶縁強度を超える可能性があります。空気は通常絶縁体として機能しますが、絶縁能力には限界があり、電圧がしきい値を超えると空気が電離され、電離された経路を電流が流れることでアーク放電(arcing)が発生します。
高電圧のアプリケーションでは、十分な空間距離を確保することが特に重要になります。環境条件(湿度、汚染、標高など)は空間距離を有効にさせることに対して大きな影響力があります。たとえば、湿度が高くなると空気の絶縁破壊電圧が下がり、アーク放電が容易に発生するようになります。そのため、エンジニアはプリント基板やシステムレイアウトを計画する際に、IEC 60664-1 や IEC 62368-1 などの国際安全規格を十分に考慮し、空間距離が業界標準と安全要件に準拠していることを確認する必要があります。これにより、電子機器の安全性と性能が向上し、耐久性や運用効率も強化されます。
図1. 空間距離(Clearance)の概略図
沿面距離(Creepage Distance)とは?絶縁不良やプリント基板短絡をどう防ぐか?
沿面距離とは、絶縁材料の表面に沿って電流が伝播する可能性のある最短経路を指します。絶縁体の表面に凹凸があったり、汚れていたりすると、電流が表面を「這うように」流れ、絶縁破壊や短絡を引き起こす可能性があります。この現象は通常、表面上の汚染物(ほこり、湿気、その他の異物など)によって導電経路が形成されることで発生し、これらの汚染物が絶縁材料の誘電強度を低下させ、電流が本来の絶縁領域をバイパスしてしまう原因となります。
したがって、適切な沿面距離の選定は、電気的故障リスクの軽減にとって極めて重要です。必要な距離は電圧レベル、絶縁材料の種類、動作環境条件によって異なります。コンポーネントが沿面距離の基準を満たすように設計することで、特に高電圧アプリケーションにおいて、電気システムの安全性と信頼性を大幅に向上させることができます。
空間距離と沿面距離の違いとは?エンジニア向け設計比較表で整理します
高電圧プリント基板の設計および電源モジュールの絶縁設計において、空間距離と沿面距離は、IEC 62368-1やIEC 60664-1などの国際安全規格で明確に規定された重要な絶縁パラメータです。これら2つの概念はどちらも電気的故障を防ぐことを目的としていますが、その定義、適用する場面、設計上の考慮点には違いがあります。
エンジニアがこの2つの距離を明確に区別できていない場合、リスクの判断を誤る可能性があり、製品の安全性や認証取得に影響を及ぼすおそれがあります。
以下に、よく使われる設計比較表を用いて分かりやすく整理しました。
特性 | 空間距離(Clearance) | 沿面距離(Creepage) |
---|---|---|
媒体 | 空気を介した最短距離 | 絶縁材料の表面に沿った最短経路 |
主な影響要因 | 電圧、標高、空気の温湿度 | 汚染度、湿度、材料表面の性質 |
設計目的 | アーク放電および空気絶縁破壊の防止 | 表面漏電および短絡の防止 |
- ・媒体が異なる:空間距離は空気の絶縁能力に依存し、沿面距離は固体絶縁材料の表面特性に依存する。
- ・影響要因が異なる:空間距離は空気環境の影響を受けやすく、沿面距離は表面状態の影響を受けやすい。
- ・設計目的が異なる:空間距離は空気中のアーク放電に対応し、沿面距離は表面漏電に対応する。
空間距離と沿面距離の共通点:
- ・動作電圧に基づいて設計される。
- ・IEC 62368-1などの国際規格に準拠する必要がある。
- ・機器の安全性と信頼性の向上を目的とする。
空間距離を設計する際に考慮すべき重要なパラメータとは?
高電圧のプリント基板または電源モジュールの設計において、空間距離の大きさは、電気的安全性および製品の安全規格への適合性に直接影響を及ぼします。IEC 62368-1およびIEC 60664-1などの国際規格に基づき、正確な空間距離を設計するには、エンジニアは以下の重要なパラメータを総合的に評価する必要があります。
- ・動作電圧(Working voltage):通常運転時にかかる電圧レベルを特定します。動作電圧が高いほど、空気の絶縁破壊を防ぐために必要とされる空間距離は大きくなります。
- ・過電圧カテゴリ(Overvoltage category)および許容されるサージ電圧:突発的な電圧スパイクに対する耐性を定義し、IECなどの規格における重要なパラメータです。
- ・汚染度(Pollution degree):運用環境における汚染の程度を反映します。汚染度が高い(例:クラス4)場合、より大きな空間距離が必要です。
- ・絶縁の種類(Type of isolation):基本絶縁、二重絶縁、強化絶縁など、採用する絶縁方法によって必要な空間距離が異なります。
- ・設置高度(Installation altitude):高地では空気の絶縁耐力が低下するため、より広い空間距離が必要になります。
- ・過渡電圧(Transient Voltage):電圧の一時的な変動も空間距離に影響を及ぼすため、絶縁破壊が起きる可能性を考慮する必要があります。
1.動作電圧:空間距離設計にどのように影響するか?
電源設計および安全規格の検証において「動作電圧(Working Voltage)」は単なる基本となる電気パラメータにとどまらず、絶縁設計、間隔要件、製品の耐電圧能力を決定する中核となる指標です。定格電圧や瞬時スパイク電圧とは異なり、動作電圧は絶縁システムに長時間継続して印加される実効電圧を意味するため、実際の動作環境および用途に基づいて正確に定義する必要があります。
IEC 62368-1では、「動作電圧」を通常動作時における二次側のいずれかの端子間にかかる最大電圧(RMSまたはDC値)と定義しています。
動作電圧は、必要とされる「空間距離」や「沿面距離」の大きさに直接影響します。電圧が高いほど、絶縁要件や空気/表面での絶縁破壊のリスクも高くなり、必要とされる安全距離も増えます。
動作電圧は、一般にピーク値または実効値(RMS)により測定されます:
- ・ピーク値(Peak Value):交流またはパルス波形の1周期内での最大瞬間電圧、すなわち瞬間的な最大電位差です。
- ・実効値(RMS, Root Mean Square):1周期を通じて直流と等価の電力を与える交流電圧を表し、長期的な加熱効果や電力出力能力を評価する主要な指標です。
2.過電圧カテゴリ:なぜOVCの等級が耐電圧間隔を決定するのか?
過電圧カテゴリ(OVC)は、雷サージやスイッチングトランジェントなど、瞬間的な高電圧に対する装置側の耐性を表すものであり、使用される電気環境における一時的過電圧リスクを評価する重要な指標です。これは必要な耐電圧設計および絶縁構造を決定するだけでなく、空間距離の最小要件にも直接関係します。分電盤に接続される産業用装置(CAT III)から、家庭用電源に接続される情報機器(CAT II)まで、OVC等級によって機器が直面する雷、スイッチング、トランジェント干渉のリスクが異なります。
IEC 62368-1では、過電圧カテゴリを次のように分類しています:
- ・カテゴリ I(Overvoltage Category I):内部回路や電源系統から完全に絶縁された装置に適用されます。これらの回路は過電圧にさらされるリスクはほとんどありません。
- ・カテゴリ II(Overvoltage Category II):単相電源に直接接続される装置(例:家庭用電化製品)に適用されます。この種の装置はスイッチング操作や雷による過渡的な過電圧の影響を受ける可能性があります。IEC規格では、例えば2.5kVなどのサージ耐性要件が定められています。
- ・カテゴリ III(Overvoltage Category III):建物内の配電系統に組み込まれる装置に適用されます。これらの装置はカテゴリ II よりも高いトランジェント過電圧に耐える必要があります。
- ・カテゴリ IV(Overvoltage Category IV):電源の引き込み点や屋外機器など、直接商用電源に接続される装置に適用されます。このような環境では極めて高いサージ電圧が想定され、非常に厳格な絶縁および空間距離要件が課されます。
機器と商用交流電源の接続位置については下図4を、代表的な応用機器については下表2をご参照ください。
図4.OVC分類-機器と商用電源との接続位置の例
過電圧カテゴリ | 装置と商用電源の接続位置 | 装置の例 |
---|---|---|
IV | 建物の電源引き込み点に接続される装置 |
・電力量計(メーター) ・遠隔電力測定用の通信機器(ITE) |
III | 建物の配線の一部として設置される装置 |
・コンセント、ブレーカーパネル、スイッチパネル ・電力モニタリング装置 |
II | 建物の配線にプラグまたは永久接続される装置 |
・家電、携帯型工具、家庭用電子機器 ・建物内で使用される一般的な情報機器(ITE) |
I | サージ抑制が施された専用電源システムに接続される装置 | ・外部フィルターやモーター発電機を介して給電される情報機器(ITE) |
3、汚染度:汚染度の区分とは?空気絶縁への影響は?
絶縁設計において、動作電圧や過電圧カテゴリの考慮に加え、「汚染度(Pollution Degree)」も空間距離および沿面距離の要件を決定する重要なパラメータです。汚染度は、実際の使用環境において機器が直面する可能性のある塵埃、湿気、導電性汚染物の影響を表し、これらの要因は絶縁界面の耐電圧能力を著しく低下させます。特に沿面距離への影響が大きくなります。クリーンな密閉装置(汚染度1)から、清浄度を予測できない産業環境(汚染度3)まで、異なる汚染度は安全距離の設定に直接影響します。
IEC 62368-1では、空間距離と沿面の設計において、IEC 60664-1で定義される環境汚染区分を参照しており、以下のように分類されます:
- ・汚染度1:汚染なし、または乾燥した非導電性汚染のみ存在。
- ・汚染度2:主に非導電性汚染で、時折結露により短時間の導電性が発生。
- ・汚染度3:導電性汚染が頻繁に存在、または乾燥した汚染が湿気によって導電性になる場合。
- ・汚染度4:導電性粉塵や水分などの汚染が常時存在し、環境が長期間導電性を維持する。
IEC 62368-1の適用においては、装置の使用環境に応じた汚染度を選定する必要があり、それに基づいて空間距離および沿面距離を正確に計算し、安全性を確保します。通常、屋内のオフィスや家庭用機器は汚染度1または2に分類され、より厳しい環境や屋外用途では汚染度3または4の考慮が必要です。
汚染度の定義および適用例は下表3を参照してください。
汚染度 | 定義と環境の説明 | 設計上のポイントと適用例 |
---|---|---|
等級 1 | 乾燥した非導電性の汚染物のみ存在し、絶縁には影響を与えない。 | 密閉された環境やポッティング内、密封電子モジュール、IC内部など |
等級 2 | 非導電性の汚染物のみが存在するが、時には結露により一時的に導電性となる可能性がある。 | 家庭用電化製品、オフィス機器、情報機器、多くの屋内製品 |
等級 3 | 導電性汚染物が存在し、または結露による導電性の汚染が頻繁に発生する。 | 産業機器、湿潤な環境、工場設備 |
等級 4 | 導電性の汚染が継続的に存在し、導電性粉塵や雨水などが絶縁に直接影響を与える。 | 屋外機器、無防護の産業設備、鉱山や海上プラットフォーム |
4、絶縁等級:絶縁の種類は?BasicとReinforcedの違いは?
「絶縁等級(Insulation Class または Insulation Category)」は、使用者の安全と機器の信頼性を確保するための重要な要素であり、感電防止および故障拡大の抑制に必要な絶縁機能を定義します。これは空間距離および沿面距離の仕様にも直接影響を与えます。「基本絶縁(Basic Insulation)」から「強化絶縁(Reinforced Insulation)」まで、各絶縁タイプには明確な設計基準とテスト条件があります。主な絶縁種別は以下の通りです:
- ・機能絶縁(Functional Insulation):回路動作のためだけに必要な絶縁で、安全保護は提供しません。
- ・基本絶縁(Basic Insulation):一次的な感電防止を提供する単層の絶縁で、最小厚さの要件はなく、ピンホールのリスクがあるため、補助絶縁や接地と組み合わせて安全性を確保します。
- ・補助絶縁(Supplementary Insulation):基本絶縁の故障時に安全を確保するための追加層。単層材料を使用する場合は、厚さ0.4mm以上が必要です。
- ・二重絶縁(Double Insulation):基本絶縁と補助絶縁の2層で構成され、安全性を向上させます。
- ・強化絶縁(Reinforced Insulation):単層構造でありながら、二重絶縁と同等の保護を提供します。IEC 62368-1によれば、単層の場合は最低0.4mmの厚さが必要です。
5、設置高度:なぜ空間距離に影響するのか?
「設置高度(Altitude of Installation)」は見落とされがちですが、空間距離に大きな影響を及ぼす環境パラメータです。高度が上がると気圧が下がり、空気の絶縁強度が低下します。つまり、同じ距離でも耐電圧能力が低下します。よって、標準(2000m)を超える高度に設置される装置では、標準の空間距離では不十分であり、規格に基づいた補正が必要となります。
IEC 62368-1では、2000m以上の高度に対して補正係数を定義しています(詳細は表4参照)。
Altitude (m) |
Normal barometric pressure (kPa) |
Multiplication factor for clearances |
Multiplication factor for electric strength test voltages | |||
---|---|---|---|---|---|---|
≥0,01 mm to | ≥0,0625 mm to | ≥1 mm to | ≥10 mm to | |||
2000 | 80,0 | 1,00 | 1,00 | 1,00 | 1,00 | 1,00 |
3000 | 70,0 | 1,14 | 1,05 | 1,05 | 1,07 | 1,10 |
4000 | 62,0 | 1,29 | 1,10 | 1,10 | 1,15 | 1,20 |
5000 | 54,0 | 1,48 | 1,17 | 1,16 | 1,24 | 1,33 |
表4. 設置高度-空間距離と耐電圧試験の補正係数
6、過渡電圧:どの程度の過渡電圧が危険か?どのように保護設計を行うべきか?
過渡過電圧とは、非常に短い時間内に発生する高電圧パルスのことで、持続時間は数マイクロ秒から数ミリ秒に及ぶことがあります。これらの過電圧は通常の運転電圧の範囲には含まれませんが、絶縁破壊や機器損傷を引き起こす可能性があるため、安全設計において考慮する必要があります。
IEC 62368-1 によると、電源系統における過渡電圧の適用値は、過電圧カテゴリと交流電圧に基づいて決定すべきであり、以下の表5を参照できます。
交流電源電圧 |
過渡電圧 V peak |
||||
---|---|---|---|---|---|
電圧実効値 (V r.m.s.) |
電圧ピーク値 (V peak) |
I | II | III | IV |
50 | 71 | 330 | 500 | 800 | 1500 |
100 | 141 | 500 | 800 | 1500 | 2500 |
150 | 210 | 800 | 1500 | 2500 | 4000 |
300 | 420 | 1500 | 2500 | 4000 | 6000 |
600 | 840 | 2500 | 4000 | 6000 | 8000 |
Required withstand voltage V peak or d.c. |
Basic insulation or supplementary insulation (mm) |
Reinforced insulation (mm) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
Pollution degree 1⁽ᵃ⁾ | Pollution degree 2 | Pollution degree 3 | Pollution degree 1⁽ᵃ⁾ | Pollution degree 2 | Pollution degree 3 | |
330 | 0.01 | 0,2 | 0,8 | 0.02 | 0,4 | 1,5 |
400 | 0,02 | 0,04 | ||||
500 | 0,04 | 0,08 | ||||
600 | 0,06 | 0,12 | ||||
800 | 0,10 | 0,20 | ||||
1000 | 0,15 | 0,30 | ||||
1200 | 0,25 | 0,5 | ||||
1500 | 0,50 | 1,0 | ||||
2000 | 1,00 | 2,0 | ||||
2500 | 1,50 | 3,0 | ||||
3000 | 2,00 | 3,8 | ||||
4000 | 3,00 | 5,5 | ||||
5000 | 4,00 | 8,0 |
表6. 要求される耐電圧に基づく最小空間距離
沿面距離を決定する前に理解すべき5つの設計要素
高電圧環境または絶縁設計において、沿面距離は、表面漏電、トラッキング劣化および絶縁破壊を防止するための重要な設計基準です。IEC 60664-1 規格によれば、エンジニアは以下の5つの重要なパラメータを総合的に考慮することで、安全性および規格適合性を満たす適切な沿面距離を選定する必要があります:
1. 動作電圧(Working Voltage)
沿面距離の選定は、日常的な運用における定格動作電圧に基づきます。動作電圧が高いほど、絶縁の必要性が高まり、必要な沿面距離も長くなります。
2. 汚染度(Pollution Degree)
機器の運用環境における汚染状態は、絶縁性能に大きな影響を与えます。汚染度が高いほど、絶縁表面に導電経路が形成されやすくなり、漏電やアーク放電のリスクが高まるため、より長い沿面距離が必要となります。
3. 絶縁の種類(Type of isolation)
基本絶縁、二重絶縁、強化絶縁など、異なる絶縁手段により、沿面距離の要件が異なります。高等級の絶縁保護ほど、必要な距離が長くなります。
4. 絶縁材料のCTI値(Comparative Tracking Index)
比較トラッキング指数(CTI)は、材料の表面トラッキングに対する耐性を評価する指標です。CTIが高い材料ほど、許容される沿面距離を短く設計することが可能です。
5. 電圧の種類(Type of Voltage)
沿面距離の設計においては、AC、DC、パルスなど電圧の波形タイプを考慮する必要があります。異なる波形は絶縁劣化や表面放電への影響が異なり、最小距離の選定に影響を与えます。
絶縁材料のCTI値(Comparative Tracking Index)を深く理解する
CTI値は、材料が湿気、汚染、高電圧環境下での表面トラッキング劣化に耐える能力を評価するもので、数値が高いほど優れた耐トラッキング性能を示し、相対的に短い沿面距離の設計が可能となります。
IEC 60664-1 規格では、CTI値に基づいて絶縁材料がグループ分けされ(下表7を参照)、以下の3つのパラメータと組み合わせて、最終的な沿面距離を選定・判断します:
- 使用するプラスチックやプリント基板材料のCTI値
- システムにおける汚染度(Pollution Degree)
- 機器の定格動作電圧(Rated Working Voltage)
エンジニアは、これらの条件に基づいて、標準の対照表(下表8を参照)を用いて、必要最小沿面距離を確認・確定することで、さまざまな用途や環境条件において安全規格に準拠した絶縁設計を行うことが可能です。
材料グループ | CTI 範囲 (VRMS) |
---|---|
材料グループ I | CTI ≥ 600 |
材料グループ II | 400 ≤ CTI |
材料グループ IIIa | 175 ≤ CTI |
材料グループ IIIb | 100 ≤ CTI |
RMS working voltage up to and including V |
1⁽ᵃ⁾ |
Pollution degree 2 Material group |
Pollution degree 3 Material group |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
I, II, IIIa, IIIb | II | IIIa, IIIb | I | II | IIIa, IIIb see Note |
||
10 | 0,08 | 0,4 | 0,4 | 0,4 | 1,0 | 1,0 | 1,0 |
12,5 | 0,09 | 0,42 | 0,42 | 0,42 | 1,05 | 1,05 | 1,05 |
16 | 0,1 | 0,45 | 0,45 | 0,45 | 1,1 | 1,1 | 1,1 |
20 | 0,11 | 0,48 | 0,48 | 0,48 | 1,2 | 1,2 | 1,2 |
25 | 0,125 | 0,5 | 0,5 | 0,5 | 1,25 | 1,25 | 1,25 |
32 | 0,14 | 0,53 | 0,53 | 0,53 | 1,3 | 1,3 | 1,3 |
40 | 0,16 | 0,56 | 0,8 | 1,1 | 1,4 | 1,6 | 1,8 |
50 | 0,18 | 0,6 | 0,85 | 1,2 | 1,5 | 1,7 | 1,9 |
63 | 0,2 | 0,63 | 0,9 | 1,25 | 1,6 | 1,8 | 2,0 |
80 | 0,22 | 0,67 | 0,95 | 1,3 | 1,7 | 1,9 | 2,1 |
100 | 0,25 | 0,71 | 1,05 | 1,4 | 1,8 | 2,0 | 2,2 |
125 | 0,28 | 0,75 | 1,15 | 1,5 | 2,0 | 2,2 | 2,4 |
160 | 0,32 | 0,8 | 1,25 | 1,6 | 2,1 | 2,3 | 2,5 |
200 | 0,42 | 1,0 | 1,4 | 2,0 | 2,5 | 2,8 | 3,2 |
250 | 0,56 | 1,25 | 1,8 | 2,5 | 3,2 | 3,6 | 4,0 |
320 | 0,75 | 1,6 | 2,2 | 3,2 | 4,0 | 4,5 | 5,0 |
400 | 1,0 | 2,0 | 2,8 | 4,0 | 5,0 | 5,6 | 6,3 |
500 | 1,3 | 2,5 | 3,6 | 5,0 | 6,3 | 7,1 | 8,0 |
630 | 1,8 | 3,2 | 4,5 | 6,3 | 8,0 | 9,0 | 10 |
800 | 2,4 | 4,0 | 5,6 | 8,0 | 10 | 11 | 12,5 |
1000 | 3,2 | 5,0 | 7,1 | 10 | 12,5 | 14 | 16 |
1250 | 4,2 | 6,3 | 9,0 | 12,5 | 16 | 18 | 20 |
1600 | 5,6 | 8,0 | 11 | 16 | 20 | 22 | 25 |
2000 | 7,5 | 10 | 14 | 20 | 25 | 28 | 32 |
2500 | 10 | 12,5 | 18 | 25 | 32 | 36 | 40 |
表8. 基本絶縁の最小沿面距離
実際の例:MINMAX AMF-07 を用いた空間距離および沿面距離の計算
エンジニアが国際規格に基づいて絶縁距離をどのように設計すればよいかを直感的に理解できるよう、MINMAX の AMF-07 シリーズ AC-DC 電源モジュールを例に、IEC 60664-1 / 62368-1 に準拠した空間距離および沿面距離の計算方法を説明します。
絶縁距離の計算例
MINMAX の AC-DC 電源供給シリーズ AMF-07 を例に仮定します:
前提条件:
- 入力電圧範囲:85–264VAC(動作電圧最大250Vrms)
- 過電圧カテゴリ:OVC II
- 汚染度:PD2
- 使用高度:5,000メートル
- CTIグループ:IIIa, IIIb
A. 空間距離の計算手順(Clearance)
1. 表5を参照すると、最大動作電圧300VかつOVC IIの場合、過渡耐電圧要件は2500V peak
2. 次に表6を参照すると、基本絶縁の空間距離は1.5mm、強化絶縁は3.0mm
3. 5000メートルの高度条件では、空間距離に補正係数を掛ける必要があるため、表4を参照すると、基本絶縁での空間距離は2.22mm(1.5mm × 1.48)、強化絶縁では4.5mm(3.0mm × 1.48)となります
B. 沿面距離の計算手順(Creepage)
1. 表8を参照すると、250Vrms の範囲および PD2 と IIIa, IIIb の交差条件において、基本絶縁の沿面距離は 2.5mm
2. 強化絶縁の場合は、基本絶縁の2倍となるため → 5.0mm(2.5mm × 2)
注意:空間絶縁と異なり、沿面距離は高度の影響を受けません。CTI値、汚染度、および定格動作電圧のみに依存します。
よくある質問 FAQ:空間距離と沿面距離について、ご理解されたでしょうか?
1. 空間距離と空距離は、どちらか一方だけ設計すればいいのでしょうか?
いいえ。両者は独立した安全設計パラメータであり、沿面距離は表面漏電を防ぐため、そして空間距離は空気中の放電を防ぐためのパラメータとして使用されます。どちらも欠かせないものであり、それぞれの規格に基づいて個別に計算する必要があります。
2. CTI 値とは?沿面距離にどう影響しますか?
CTI(Comparative Tracking Index:比較トラッキング指数)は、材料の耐トラッキング性を示す指標です。CTI 値が高いほど、材料表面に導電経路が形成されにくく、より短い沿面距離で設計することが可能です。
3. 設置高度は沿面距離に影響しますか?
いいえ。高度は空気の絶縁耐力(誘電強度)にのみ影響を及ぼすため、「空間距離」のみ調整が必要です。沿面距離の設計は高度の影響を受けません。
4. IEC 60664 と IEC 62368 の違いは?
IEC 60664-1 は絶縁距離の計算に関するコア規格であり、機器内部設計に適用されます。一方、IEC 62368-1 は製品の安全規格で、60664 を根拠として引用しています。この両者は補完関係にあります。
5. 強化絶縁を選ぶ場合、距離はどれくらい必要ですか?
通常は基本絶縁の2倍の距離が必要です。たとえば、基本絶縁が2.5mm必要な場合、強化絶縁では ≥ 5.0mm に設計する必要があります(CTIや汚染度などのパラメータに依存します)。
まとめと実務的アドバイス:設計を規格準拠かつ安全にするには?
高電圧入力、高高度での運用、または高い汚染度の環境において、適切な空間距離および沿面距離の設定は、システムの安全な動作および国際的な安全規格認証の取得において不可欠です。
これらの距離設計は、IEC 60664-1、IEC 62368-1、UL 62368-1 などの規格に厳密に準拠し、動作電圧、汚染度、絶縁タイプ、CTI 値、および高度といった主要パラメータを総合的に考慮する必要があります。これらの要因相互の関係性を深く理解することで、真に信頼性が高く、安定して長寿命な絶縁システムを設計することが可能になります。
MINMAX Technology(捷拓科技)では、すべての絶縁型 DC-DC および AC-DC コンバータ製品において次のような対策をおりこんだ設計を行っています:
- ・IECおよびULといった国際安全規格に基づいた厳格な設計および検証
- ・高いレベルの汚染・電圧・高度を応用したシナリオを前提に設計
- ・沿面距離・空間距離構造と強化絶縁による保護を提供
- ・医療、産業制御、電源管理、EVなど過酷なアプリケーション環境に対応
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